ある日、電車で目をつぶっていた雪原楓奈は葉が擦れあう音が聞こえ不思議に思い目を開けると森の中にいた。
「どこ・・・ここ」
周りを見渡しても木ばかりで人の気配はなく、葉が風に吹かれる音だけしている。
「もしかして異世界転移?ハハ、小説じゃあるまいし」
呆然としながら思った事を言葉にだしていた。
(よくその手の小説を読んでいたけれど自分がその立場になるとは思いもしなかった。小説の主人公達は何かしらの得意分野を持ち、周りに貢献して居場所を作っていたが私には無理だ。得意分野なんか無いし話すのも説明するのも苦手で、一人でいるほうが落ち着ける)
そんな事を考えてなんとか気持ちを落ち着けようとした。
けれど現状を見るよりも早く出ようと思う気持ちが勝り、周囲を見て獣が通った跡のような草が短く小枝が折れている場所をみつけた。
いつまでも此処にいる訳にはいかない。
日が落ちたら視界が悪くなるし野生動物が出てくるかもしれないからだ。
(とりあえず歩いてみよう。最低でも水がある所にはでたいな)
そう思いながら獣道らしき所を私は歩きだした。
獣通をどれだけ歩いただろうか。日が傾いてきたけれど水辺はいっこうに見つからない。
それでも歩き続けたが完全に日が落ちあたり一面真っ暗になってしまい、どうしようか一旦歩くのをやめ考えていると目の端に微かに光が見えた。
(光!!助かった。)
私はその光にむかって走った。木の根に足をとられ転んだり小枝に引っ掛かったりしたがそんな事より光に向かい一心不乱に走ったそして目の前に現れたのは・・・一本の木だった。
その木はいままでのとは違い、葉がキラキラと輝く幻想的な木だ。
うしろを振り返ってみると先の見えない暗闇が広がっていた。
(人家じゃなかった。でも、もう暗いし今日はこの木のところで休もう。)
私はがっかりしながら木の根元まで行ってみると、両手を広げた大人が10人いてやっと一周できるぐらい太い幹と、空を覆い隠すほどの青々とした葉だった。
(綺麗だな。大きいし世界樹みたい)
根元についてあたりを見渡すと光っているのはこの木とその周辺だけで、その光はとても温かく心地よかった。
幹に寄りかかると歩き続けていた疲労が一気にでたのか気を失うように眠りについた。